防災VR研究における3DCG・VR技術の役割—京都大学防災研究所との共同研究を通じて
- 広報SC

- 2 日前
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意図と行動のギャップを埋める
個人レベルの減災対策が不十分な水準にとどまっているという問題は、防災コミュニケーション研究における長年の課題です。
情報として災害リスクを「知っている」人でも、実際の備えに至らないケースは多く、この「意図-行動ギャップ(Intention-Action Gap)」の解消を目指して、京都大学防災研究所・藤見俊夫准教授と共同研究を行っています。
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K22882/
本研究の中核的な問いは明快で、「ハザードマップ(記述的情報)」と「3DCG・VR映像(体験的情報)」では、リスクの受け取られ方がどのように異なるのか—そのメカニズムを、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)による脳活動計測を用いて解明することです。
白獅子はこの研究において3DCG・VR映像の制作を担い、その後、令和7年9月にJSTムーンショット型研究開発事業のもとで京都大学と正式な共同研究契約を締結いたしました。
本稿では、CG・VR技術が研究プロセスにおいてどのような役割を果たしたかを整理してお伝えいたします。
「刺激材料」としてのVR設計
防災VRを研究実験に用いる際、コンテンツに求められる条件は、通常の体験提供とは質的に異なります。
体験者に「伝わればよい」のではなく、実験条件として統制された刺激材料として機能しなければならないからです。
具体的には以下の設計要件が求められました。
① 第一人称視点による没入感の担保 研究の仮説は「第一人称視点で脅威を直接知覚することで、情動がより強く喚起される」というものです。 この仮説を検証するためには、被験者が映像を「観察する」ではなく「その場にいる」と感じる視点設計が必要でした。カメラ高・視野角・移動速度の設定を、実際の人間の知覚特性に合わせて精緻に調整しています。
② 刺激強度の条件統制 fMRI実験では、比較する2条件(VR映像とハザードマップ)の間で、リスク情報の「量」を揃えつつ「形式」のみを変えることが必要です。 同一の洪水シナリオを、体験的情報と記述的情報のそれぞれで表現しながら、情報量の差が結果に混入しないよう設計しました。
③ 提示時間とシーン構成の設計
fMRI計測では、脳の血流変化(BOLD信号)を正確に捉えるため、刺激提示のタイミング設計が精度に直結します。
映像の長さ、場面の切り替わり、静止場面の挿入といった時間的構造を、神経計測の要件に合わせて組み立てました。
研究が示した知見:VRが扁桃体を活性化させる
この設計のもとで実施された実験の結果は、研究仮説を支持するものでした。
45名を対象とした脳画像実験において、私たちが制作した洪水の3DCG映像はハザードマップと比較して、恐怖処理に関連する脳領域「扁桃体」のより強い活性化を引き起こしました。
また、1,000名規模のウェブ実験では、VR映像が洪水への備えの意図を有意に高め、その効果が「恐怖の喚起」によって媒介されていることが示されました。
ここで重要なのは、「VRのほうが印象的だから効く」という印象論ではなく、体験的情報と記述的情報が脳内で異なる神経経路を経て処理されているという点です。
両者は互いに代替できない—ハザードマップを精緻化してもVRの代わりにはならず、VRがあってもハザードマップの役割は失われないという知見は、防災リスクコミュニケーション政策に対して明確な含意を持ちます。
VRコンテンツが「体験として効果的」であることと、「研究の刺激材料として機能する」ことの間には、埋めるべき設計上のギャップがありますが、白獅子はこの13年間、前者の知見を実務から積み上げてきました。
藤見准教授との共同研究は、その知見を科学的に検証可能な形で社会に示す取り組みです。
「See, Change, Act!」—「見て」、「変わり」、「行動する」。 私たち白獅子は、今研究で、そのプロセスの神経科学的基盤を明らかにし、より精度の高い体験の提供と、体験による行動変容→意識の変化を『数値化」して世界へと広めて行きます。




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